執筆者:昆 知宏
「20代、頭金ゼロ、借入5,000万円、返済期間40年超」。
こうした相談が、地方では当たり前になりつつあります。
年収はさほど伸びていない。家計構造は変わらない。共働き前提。育休や転職も珍しくない。
にもかかわらず、借入規模と返済期間だけが膨張していく。
この現象、あなたの現場でも実感があるのではないでしょうか?
背景には、住宅価格の高騰に加え、広告や住宅展示場、SNSの影響で「若くして持ち家」はいまや“普通”という空気感があります。
「いま買わないと一生買えない」
「家賃は捨て金」
結局地方だとやはり家があったほうが圧倒的によくて、家庭をもった若い世代は住宅購入希望者が未だに多いです。ですが、実態はローン返済に人生を縛られる選択になりかねません。
住宅会社側も、職業柄“買ってもらうこと”がゴールです。
返済比率を調整するために夫婦合算、ペアローン、40年超ローン…あらゆるテクニックを駆使して通せる枠を探しにいきます。
そしてFPとしては、そんな若いご夫婦に「現実」をそっと伝えたい。
「10年後もその支出バランス、続きますか?」
「仕事と家庭のステージが変わったとき、余裕はありますか?」
「人生をこの地に固定できる覚悟できてますか?」
しかし、若い世代は勢いがあります。
「人生は一度きり」「とにかくやってみたい」
その想い自体は尊いですよね。
その勢いが住宅を購入したことによって止まってしまう可能性ももう少し考えてもいいと思うのです。
住宅会社から来た“融資相談”とFPの違和感
先日、住宅会社からこんな相談が入りました。
「このご夫婦、どうにかローン通せませんか?」
条件はこうです。
20代
頭金なし
借入希望5,000万円
ご主人は1年以内に転職予定
奥様は育休中。明けに転職予定。
「うーん…」と思わず眉間にシワが寄る案件。
返済比率や将来的なキャッシュフローを考えると、“買える”と“買っていい”はまったく違いますよね。
仮に通せたとしても、「いま決断する必要は?」という判断が自然です。
ところが私が慎重姿勢を崩さずにいたら、ローン取次会社がサッと案件を持っていきました。
融資取次のゴールはローンが通ること。FPのゴールはその人の人生が豊かになること
ですから目的が違う。
だから動きも違う。
もちろん、取次会社が悪いわけではありません。
“依頼者の目的=融資”であれば、彼らは正しい。
ただしFPは、その後の人生まで見通さなければいけない職種です。
金融商品に対し中立であること以上に、「人生設計の中立性」を担保しなくてはならない。
この違いに、改めて背筋が伸びました。
FPの役割は「止めること」ではなく「未来へ導く設計」
“止めるFP”は嫌われます。
「夢を壊された」と思われることもあります。
特に住宅会社からしたら数千万円の売り上げをフイにする私は何の役にも立たないでしょう。だからこその独立系FPですよね。
私たちの使命は現実を示し、選択の視界を広げ、無理なく希望に近づける設計を提示することです。
ライフプランとは言い換えれば「今の幸せを守りつつ、未来の幸せも取り逃がさない」技術です。
目の前の家を買うことではなく、
“暮らし方の自由度”を残すことこそ、FPが提供すべき価値。
家を買うこと=人生の自由度は減る可能性があること。その地に生きる覚悟を決めること。
無理なローン=転職がやりがいではなく、お金で選ぶことが必然となること。
“夢”を手伝うのではなく、
その夢が破綻しないレールを作る。
そう考えていくと、本当に相談者にとってのタイミングが今なのかは疑問が残るわけです。
不安を煽らず、自由を守るために
住宅営業は「大丈夫です、通せます」
銀行やローン取次「審査は任せてください」
家を欲しいと思ってしまったばかりに、人によっては意図せず無理ゲー人生へと誘導されてしまう恐れがある昨今。
時に私たちは最も地味で、最も信頼されない立ち位置に立ちます。
しかし、数年後に感謝されるケースが増えているのも事実です。
「あなたの言葉で冷静になれた」
「3年貯めて買ったら、無理ないプランができた」
「お金だけじゃなく人生観まで変わった」
FPの価値は“即効性”より持続的な幸福設計にあります。
・借入規模の肥大化
・返済期間の延伸化
この2点が今急速に進行中です。
でも、FPは流されてはいけない。
「買わせる側」でも「止める側」でもなく、導く側でいること。
夢に現実を、未来に自由を。
なんだか政治家のスローガンみたいですね。
私たちにはその責任と誇りがあります。