花火大会の有料席から学ぶ、FPに必要な“伝える力”

執筆者:昆 知宏

夏の夜を彩る花火大会。

子どもの頃から家族で見に行ったり、友人と浴衣で出かけたりと、心に残る思い出を持つ方も多いのではないでしょうか。地域に根ざした大切な行事として、日本人の夏に欠かせない存在です。

ところが最近、「有料席ばかり増えて、昔のように気軽に見られなくなった」と不満の声を耳にする機会が増えました。私自身も、「主催者が営利目的で席を売っているのでは?」と感じていました。

けれど、実際に地元大会の収支を細かく確認する機会があり、その考えが一変しました。有料席を広げなければ大会そのものが続けられない。運営側は営利のためではなく、“灯を絶やさないために”有料席を導入しているのです。誤解と事実の間には、大きなギャップがありました。

なぜ有料席が必要なのか

調べてみると花火大会を運営するには、想像以上のお金がかかります。花火玉の仕入れはもちろん、打ち上げ技師の人件費、観覧エリアの設営、警備、交通整理、ゴミ処理、救護体制…。そのすべてを合わせると、規模の大きい大会では数億〜十数億円に達します。たとえば有名な新潟県の長岡大花火大会では、花火費用だけで3億円、警備・安全対策には4億円以上。全体では18億円を超える規模です。

加えて近年は、火薬価格の高騰や円安の影響、物価上昇がのしかかっています。さらに企業の協賛金も、コロナ禍以降は控えめになる傾向があり、「企業頼み」だけでは成り立たなくなっています。そこで登場したのが有料席。観客にとっては「無料の場所が減った」と感じられますが、実際には大会を存続させるための資金確保の手段であり、同時に安全面でも重要な役割を担います。指定席を設けることで混雑を防ぎ、観覧者を安全に誘導できる。つまり有料席は「儲けの仕組み」ではなく「守るための仕組み」なのです。

事実を知る人は少ない

では、こうした大会をどう守っていけばいいのでしょうか。鍵になるのは「事実を正しく伝えること」です。資金不足に直面していると知れば、「多少なら協賛してもいい」「地域のために寄付しよう」と考える人は、意外と多いはずです。

私自身、先週見せてもらった大会の収支を前に、「もし声が掛かれば協力したい」「やりやすい方法の協賛方法があれば支援したい」と素直に思いました。

例えば地元の中学校区で会社を経営している人たちへ声をかければ1口3万円程度であればそこそこ集まると思います。リーフレットに会社名がのったり、打ち上げ前に会社名が読まれたりすることは名誉なことです。

たった3万円と思うかもしれませんが、全体の事業規模が4000万ほどの地域の花火大会の場合は、13口でもう全体の1%もの費用になります。

ただし、「寄付してください」だけでは人の心は動きにくいのも事実です。ここで必要なのがコピーライティングの知恵。現状を説明し、問題点を共有し、解決策を示したうえで「あなたの力が必要です」と伝える。

この流れがあれば、人は共感し、行動を起こしてくれます。最近ではクラウドファンディングやふるさと納税を活用し、寄付とリターンを組み合わせる仕組みも広がっています。返礼品として「有料席」や「記念グッズ」を用意すれば、協力のハードルはぐっと下がります。

地域のネットワークやSNSを通じて、正直に丁寧に伝えること。これが、花火大会の未来を守る現実的な道だと感じています。

FPの仕事との共通点

この話は、私たちFPの仕事とも重なります。FP相談の費用は無形サービスです。

理由が分からないとただただ高いだけ等、違った意図で受け取る方が多数いらしゃることが想定されます。

しかし実際にはその何倍ものメリットが顧客に返っていきます。あなたの顧客でもコンサルティングを受けて、良くなかったですなんて人、ほとんどいませんよね。

ライフプランの見直しや資産運用の提案は、未来の安心や数百万〜数千万円の経済的効果につながることも珍しくありません。

花火大会の有料席が「大会を守るため」にあるように、FPの費用も「顧客の未来を守るため」にある。ここを正しく伝えられるかどうかで、誤解は解け、信頼が築かれます。

言葉には、人を動かす力があります。誤解を解き、共感を生み、未来を守る力です。花火大会も、私たちの仕事も同じ。

定期的に「自分の伝え方は正しいか」「顧客に誤解されていないか」を自問自答することは、成長と継続のための大事な作業です。正しく伝わっていないことほど、恐ろしいことはありません。

昆知宏
新潟の住宅会社に営業として勤めた後、『特定の会社に属さずに、客観的な立場から住宅購入をサポートできるFPになりたい』という想いの元独立。住宅購入を専門とするFPとして、新潟でこれから家を買う方への相談を行っている。コンサルティングフィーは土地建物価格の1%と高額ながら、多くの顧客に支持されている。

関連記事