執筆者:昆 知宏
これからFPとして独立しようと考えている方へ。
もしくはFPとして独立はしたが思うように成果が上がらない方へ。
今日は私が独立して1年目にやっていたことについてお話ししていきたいと思います。
私は独立して事務所を構えた当初、「とにかく食べていけるかどうか」という一点に心を奪われていました。資格を持っていても、実務知識が豊富であっても、お客様から選ばれなければ独立系FPとしては成り立ちません。
理想や理念だけで仕事がくることはきっと難しい。運営費や生活費、将来の見立てをしっかり考えなければならない。だからこそ、まず最初に決めたのは「売上の目標を掲げること」でした。具体的には、年間売上1000万円です。
これは利益ではなくあくまで売上ベースの数字ですが、私にとっては独立を続けるかどうかを判断する「合格ライン」でもありました。その数字をただ頭の中で思い描くだけではなく、家のリビングに大きく掲げ、まるで小学校の運動会で使う得点板のように「パラパラと数字をめくれるカウンター」を買ってきて、毎日の売上を更新していきました。
リビングという家庭の中心に置いたのは、自分だけでなく妻の目にも触れるようにするためです。独立した以上、これは家族の挑戦でもある。そう思って、日々の数字を積み上げていく様子を「見える化」しました。
数字が与えた覚悟とモチベーション
この取り組みを3年間続けてみて、もし1,000万円に届かなければ「FPとして独立を続けるのは諦めよう」と最初から腹を括っていました。そうすることで、なんとなく独立を引き延ばすこともなく、ダラダラと曖昧に努力することもなく、「到達できなければもともとやっていた住宅営業職に潔く戻る」という選択肢を明確にしておけたのです。独立前に勤めていた職場との関係も良好で実際にいつでも戻れるという環境があったことも事実です。
独立したての頃の私は、理念やビジョンといったきれいな言葉も大事ですが、まずは数字という現実的な尺度に真正面から向き合うことが大切だと感じていました。実際にやってみて思うのは、これは正解だったということです。なぜなら、売上という具体的な目標があったからこそ、自分の行動や努力の軌道修正がしやすく、モチベーションも保ちやすかったからです。数字が1つずつ積み上がっていくと、単に家計が回るという安心感だけでなく、「社会に求められているんだ」という実感も湧き上がってきます。それはFPという職業を選んだ自分にとって、仕事への覚悟を固めるうえで大きな意味を持ちました。
1年目での到達と数字の卒業
結果的に、私は1年目で売上1000万円に到達することができました。最初の3年間はお声が掛かった仕事は選ばずやろうと思っていたことや月の休みは2.3日というハードワークを課したことで数字を作った形です。
数字が積み重なっていく日々を、妻と一緒に確認できたのは本当に良かったと思います。妻も毎日更新されていく得点板を見て、「今日はこんなに増えたんだ」と安心できただろうし、何よりも自分自身が、ただ漠然と頑張るのではなく、「未達ならサラリーマンに戻る」という背水の陣の覚悟で臨んでいたからこそ、集中力が途切れなかったのです。
実際、数字が見えていると自然と「次はこの相談をどう相手の利益につなげようか」といった思考が働き、行動が研ぎ澄まされていきます。人は目の前に分かりやすいゴールがあれば走れるものです。
逆にゴールが曖昧なままでは、頑張っているつもりでも惰性に流されてしまうと考えます。ちなみに、目標を達成した翌年には、もうその得点板は役目を終えました。なぜなら、私にとって数字を伸ばすこと自体が目的ではなかったからです。あの取り組みは、独立初期に必要だった「試金石」であり、数字に縛られ続けるためのものではなかったのです。
質を追う集客へのシフト
そして今、私はもう売上目標を立てていません。もちろん数字が全く気にならないわけではありませんが、数字を追うことに強い意味を見いだせなくなりました。むしろ、自分の時間をどう確保するか、顧客との関係をどう深めるかという質的な部分にこだわるようになっています。
講演会や業務提携などの法人案件を完全に選ぶようになりましたし選ぶときも「本当にお互いにメリットがあるかどうか、エンドユーザーのメリットは絶対的にあるか」を最優先に考えます。依頼が来たとしても、相手にとってプラスにならない、あるいはこちらにとっても無理があると判断すれば、断るようにしています。そのような要素を鑑みると8割以上の仕事は辞退になります。
その分別は非常にデリケートで、常に細心の注意を払いますが、結果的に「長く続く良い関係」だけが残っていきます。
数字を追わなくなった代わりに、私は「ご縁のあるお客様としっかり向き合い、その方に何かを必ず与える」ことを目標に据えるようになりました。言い換えれば、何かを明確に与えることができそうな顧客としか付き合わない。つまり集客の質を追うということです。
独立後の初期には数字が必要でしたが、ある時期を境にして「質の追求」にシフトしていく。これが私の経験から得た大きな学びです。そしてこれは、これから独立を考えているFPや、すでに事務所を構えて悩んでいるFPにとっても参考になる視点ではないかと思います。まずは数字で覚悟を固め、とりあえずやってみて自分に合う合わないを選別していく。
そして少し安定してきたら質で仕事を深めていく。この切り替えを意識できるかどうかで、独立系FPのキャリアと満足度は大きく変わると実感しています。