競合を恐れるな──時代が変われば、戦い方も変わる

執筆者:昆 知宏

   

人気のある住宅会社ほど、競合を嫌います。

つまり「うちは競合では動きません」というスタンスを取ることがあります。


他社と同時にプレゼンをする「コンペ形式」では提案を受けないということです。

一見それは強気な経営スタイルにも見えます。
 
 

「自社の提案力に自信がある」「時間をかけて本気の顧客だけに向き合いたい」そんな姿勢の表れでもあります。
 
 

実際、これまでの住宅業界では、そのような“選ばれる側”のスタンスが成立していました。
 需要が一定以上あり、供給側が強い時代では、競合を避けても十分に契約が取れたからです。

同じような状況は、私たちファイナンシャルプランナー(FP)にも見られるかもしれません。
 
 

たとえば、相談の際に「他のFPにも話を聞いてみようと思っています」と言われたとき。
あなたはどう感じますか?以前の私は、少し構えてしまうこともありました。
 
 

「それなら、そのFPとじっくりやればいいのでは?なんか時間の無駄だな」と心の中で思ってしまう瞬間があったのです。

でも今は違います。
 競合がいようがいまいが、別にどうでもいい。
 

なぜなら、どんな状況でも“顧客にとって本当に意味のある提案”をしていれば、結局選ばれるのはより顧客にメリットがある側だからです。

セカンドオピニオンとして来られた方であっても、それはそれでいい。
 

むしろ、他のFPの意見を聞いたうえで、自分の提案がより信頼されることもある。
 競合を恐れるのではなく、「比較されることを前提に、自分の特性を出す」という姿勢のほうが、今の時代に合っていると感じています。

住宅業界は確実に転換期を迎えている

ここで話を住宅業界に戻しましょう。
 新築住宅の着工件数は年々減少を続けています。
 物価高に加えて金利上昇の兆しもあり、家づくりへの意欲は目に見えて落ちています。

最近のニュースによると、なんと6%の人が「50年ローン」を選んでいるそうです。
 もう、ここまで来ると“家を建てる”こと自体が一部の人にしかできない領域になりつつあります。

FPならすぐにわかることですが、40年を超えるローンが選ばれているのは、「それ以外では毎月の支払いが現実的に難しい」ということの裏返しです。


つまり、家の価格が高騰しすぎて、平均的な年収層が限界点を迎えている。
 
 

それでも住宅会社は建ててもらわなければ困るし、銀行も貸さなければ利益が出ない。

結果として、住宅会社・銀行・顧客の三者が“それぞれの都合で一致する”形が出来上がっています。
 

「40年ローンなら月々返済がラクになりますよ」という営業トークの裏には、業界全体の“延命措置”的な構造があるのです。

しかし、これは短期的な安定を生む一方で、長期的にはリスクも伴います。
 

もし今後、金利が上がれば、40年・50年という長期ローンは一気に重荷になる。
 

住宅価格の維持すら難しい時代に入れば、資産としての家の価値も揺らぐでしょう。

そんななかで、消費者はどう動くか。
 

当然、「比較して、納得して、慎重に決める」という方向に進みます。
 つまり、競合比較が前提の市場に変わったということです。
 

“比較されることを前提にした戦い方”が、いま住宅業界にも、そして私たちFPにも求められています。

競合を恐れず、勝ち抜く力を磨く

私は先日、これまで「競合は受けない」というポリシーを貫いてきた住宅会社に、
 「競合ありの案件でぜひ提案してほしい」とお願いをしました。

当初は当然、難色を示されました。
 「うちは比較される場には出ません」と。
 
ですが、私はこう伝えました。

「今はそういう時代ではないですよ。競合を恐れずに出ていくことが、これからの成長につながる。もし負けたとしても、それは経費の損失ではなく“マーケティング投資”なんです。市場が縮小していくなかで、“戦わないこと”はリスクです。」


比較される中でしか磨かれないスキルがあります。
 また、顧客の立場から見れば、比較をして初めて納得できる。
 

FPも同じです。
 「他の人にも相談している」と言われても、焦らなくていい。
 

むしろ、比較されることを前提に、自分のスタンスを明確に伝えればいいのです。

セカンドオピニオンで来た方には、先に相談した人の提案を尊重しながら、「違う視点からの補足」を提供する。


初回から来た方には、「セカンドオピニオンを聞く必要がないくらい真摯な提案」をする。
 このように競合の存在を前提にした動き方こそ、これからの時代における“信頼獲得の王道”です。

競合の先にあるもの──信頼とブランドの再構築

結果的に、今回の住宅コンペでその会社は見事に勝ちました。
 競合を避けてきた会社が、久しぶりに比較の場に出て勝てた。

これはものすごく価値のあることだと思いませんか?

競合の場に出るというのは、ある意味で“評価されるリスク”を取ることです。
 でも、それを避けていては、いつのまにか市場の中で存在感を失ってしまう。市場を把握していない一時的な人気などあっという間に収束してしまうのです。


比較され、選ばれ、時に負けて、そこから改善を重ねていく。
 このサイクルが、信頼を積み重ねる唯一の道です。

とくにこれからの時代は、顧客のリテラシーが圧倒的に上がっています。
 ネットで調べ、複数の意見を比較し、納得したうえで行動する。
 そのプロセスを止めることは誰にもできません。

だからこそ、FPとしても住宅会社としても、
 「選ばれる理由を言語化し、他と比較されてもブレない軸」を持つことが大切です。

そしてもう一つ重要なのは、競合する相手を“敵”と見ないこと。
 同じ市場を共に育てていく仲間だと思えれば、発想がガラッと変わります。
 勝ち負けというよりも顧客との理念のすり合わせのようなものです。

いま、住宅業界は確実に転換期を迎えています。
 これまでのように「人気があるから競合しない」ではなく、「競合の中でこそ強みを証明する」ことが問われている。

FPの世界でも同じ。
 選ばれることを恐れず、比較されることを前提に、誠実に顧客と向き合う。
 その積み重ねが、最終的に唯一無二のブランドを作っていきます。

昆知宏
新潟の住宅会社に営業として勤めた後、『特定の会社に属さずに、客観的な立場から住宅購入をサポートできるFPになりたい』という想いの元独立。住宅購入を専門とするFPとして、新潟でこれから家を買う方への相談を行っている。コンサルティングフィーは土地建物価格の1%と高額ながら、多くの顧客に支持されている。

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