執筆者:昆 知宏
最近、銀行口座や証券口座の情報がハッキングされ、自分の資産が勝手に動かされてしまったらどうしよう、と考えることが増えました。
これまで資産運用のリスクといえば、株価の下落や為替の変動が中心でした。
株価が30%下がることもあれば、40%下がることもある。そうした値動きは、投資を続けていれば避けられないものとして考えてきました。
ところが、口座そのものを乗っ取られ、資産を失うかもしれないというリスクは、これまであまり真剣に考えていませんでした。
もちろん、サイバー攻撃に遭ったからといって、必ずしも補償されないわけではありません。
被害の状況や金融機関の対応などによって異なりますが、どこか各社逃げ腰なスタンスなのも気になります。
考え始めると、何とも嫌な気持ちになります。
もし、こうした問題が大規模に発生し、金融機関への信頼まで揺らぐような事態になったら、市場にも大きな影響が出るかもしれません。
個人的には、コロナショックのときよりも、何だか嫌な感じがしています。株価が下がることそのものより、資産を預けている仕組みそのものへの不安だからかもしれません。
逃げようにもどこに?
仮に、証券口座のセキュリティーに重大な問題が起きたとしたら、どうすればいいのでしょうか。
いったん株式を売却して、リスクを減らすという選択肢はあります。
しかし、売却したお金は証券口座の中に残ります。銀行に送金すれば安心なのか。
それとも、銀行口座にも同じようなリスクがあるのではないか。
だからといって、すべて現金にして自宅で保管するわけにもいきません。
考えれば考えるほど、どこに資産を置いておくのが正解なのかわからなくなります。
投資をしていると、株価が下がったときに「売るべきか、持ち続けるべきか」と悩むことがあります。
しかし、今回のような問題は、それとは少し違います。
資産をどこに置いておくのか、どの金融機関を信頼するのかという、資産管理そのものの問題だからです。
こうしたリスクについて、今まで以上に考える必要があると感じています。
暴落には慣れているつもりだけど...
長く投資を続けている人にとって、数年に一度の大きな下落やパニックは、ある程度経験してきた出来事かもしれません。
株価が下がっても、企業の価値が失われたわけではない。
資産を使う時期が先なら、慌てて売却せずに持ち続ける。そうした考え方を身につけてきた人も多いと思います。
しかし今回のように暴落の可能性が一つの可能性として目に見えて存在している状況になって思うのが、自分自身のリスク許容度です。
もし今、資産が40%減少し、その後の回復に20年かかるとしたら。自分は本当に耐えられるのだろうか。
資産を使う時期が遠く、十分な時間がある人なら、何も変えずに持ち続けることが合理的な場合もあります。
一方で、年齢を重ね、資産を使う時期が近づいている人にとっては、同じリスクを取り続けることが最善とは限りません。
今回の不安をきっかけに、自分のポートフォリオを見直してみるのも、一つの考え方だと思います。
1億円を、2億円にする必要はあるのか
例えば、すでに1億円の資産を持っている人がいたとします。
ここから資産を5000万円まで減らしてしまう可能性を受け入れながら、2億円を目指すのか。それとも、資産を大きく増やすことは諦め、国債などを活用して、将来の資産額をより確実なものにしていくのか。
もちろん、国債にも金利変動やインフレなどのリスクがあり、必ずしも実質的な購買力が守られるわけではありません。また、将来の資産額は税金や運用条件によって変わります。
それでも、すでに十分な資産を持っている人にとっては、さらに資産を増やすことより、今ある資産を減らさずに使っていくことの方が大切になる場合があります。
1億円を2億円にすることには、確かに夢があります。
しかし、1億円あれば十分に満足できる暮らしができる人にとって、そこからさらにリスクを取る意味はどれほどあるのでしょうか。ライフプランを作成する現場にいると、そのリスクが見合っていない人が多いことに気づきます。
資産運用というと、どうしても「いくら増やせるか」に目が向きがちです。
でも、本当に大切なのは、自分が望む暮らしを実現するために、いくら必要なのかということだと思います。
今回の口座ハッキングへの不安は、まだ起きていないことを心配しすぎているだけなのかもしれません。
それでも、自分がどこまでリスクを取る必要があるのかを考える、よいきっかけにはなりました。
資産を増やすことだけが、投資の目的ではありません。
こういった精神的な要素をフォローできるのは、まさに利害関係のない独立系FPにしかできないことかと思いますので、不安に思う人の気持ちや意向をくみ取りしっかりと支えていけたらと思います。