人生は短編小説、FPはその名編集者

人執筆者:昆 知宏

     

人生は短編小説だ。
 最近ふと手に取った本の中で、この言葉に出会いました。

気がつけば立ち止まり、自分のこれまでを振り返ってしまう。でもあの頃の出来事はひとつの物語として完結し、気づけば次の物語が始まっていた。そう考えると、人生はまるで短編小説をいくつも重ねた一冊の本のように思えてきます。

ある物語は穏やかに流れ、ある物語は波乱万丈。ときには息をのむ展開もあり、ときには何気ない日常が淡々と続く章もある。けれども不思議なことに、そのすべてが「自分の人生」という唯一の本を形づくっているのです。

なんかこう思うと、新たな道が開けてきそうな気持ちがしてきたのです。

私自身に置き換えると、高校卒業までを第1章、大学入学からサラリーマン卒業までを第2章、そして独立してFPとして歩んだ道筋を3章と捉えています。章の切り替わりのときは、チャンスをつかむために行先が未知な列車の最終切符に飛び乗った気分でした。

そして3章に入り干支が一巡するこの時期に、第4章を強く意識しています。3章をそのまま続けていくのではなく、新しい章に入りたい。内なる衝動がそう告げているのです。

本には「人生の短編は必ずしも前の物語と連続している必要はない。語り口が変わってもいいし、短い章があってもいい。混乱した物語もあれば、思わず胸が高鳴る章もある。」と書いてありました。

要は、その筆を取るのが自分自身であるということ。そして新しい章を書くためには、ときに古い章を手放す勇気が求められる。その言葉が心に深く刺さりました。

自己超越への挑戦

私が次の章を意識するにあたり一つテーマがあります。それは、心理学者マズローの唱えた「自己超越」です。

自己実現のさらに先にある心の成熟を示すものですが、その尺度を読んでいると、まさに「次の章へ向かう感覚」と重なる部分があるのです。

以下のような10個のチェックリストがあります。

①静かな黙想に入りやすくなった

②自分の人生はより大きな全体の一部だと感じる

③他人の意見を気にしなくなった

④過去や未来の世代とのつながりをより強く感じる

⑤以前ほど心の平穏が乱されなくなった

⑥自己意識の他者依存が薄れていく

⑦簡単には怒らなくなった

⑧人生により多くの喜びを見出す

⑨物質的なものの重要性が下がる

➉敵に対してさえ思いやりを感じるようになる

あなたはどうでしょうか。
 
 

これを読むと、自分自身の内面の変化や、人生観が切り替わる瞬間に気づく方もいるのではないでしょうか。

私が思うのは、こうした心の変化こそ「次の章を生きるための合図」だということです。

章を変えるときの葛藤

第1章、第2章、第3章とそれぞれに意味があり必然がありました。そのときは大きな挑戦であっても、振り返ればすべてが「新しい章を始める勇気」から始まっていました。

章を変えるとき、人は必ず葛藤します。慣れ親しんだ章を手放すことへの未練や、次の章がどんな展開になるかわからない不安。過去の章にとどまっていたほうが楽だと感じる瞬間もあるでしょう。しかし、短編小説において「終わり」は新しい物語の「始まり」と不可分です。

重要なのは、過去の章を否定しないこと。むしろその章があったからこそ次の章が意味を持つ。人生の短編はすべて伏線であり、どんな出来事も新しい章の礎になる。そう信じられるかどうかで、次の一歩は重くも軽くもなるのです。

自己超越に近づくほど、章を変える勇気は「しなやかさ」へと変わります。力んで突破するのではなく、自然に移行していく。外からの評価ではなく、自分の中の小さな声に耳を澄ませる。誰かに認められるための決断ではなく、自分自身の心に納得できるかどうか。そうした静かな決意が、次の章を開く鍵になるのです。

経営者にとっても、この感覚は極めて重要です。数字や結果に囚われていては、やがて物語が枯渇してしまう。大切なのは「どんな章を紡ぎたいのか」という視点を持つこと。成功も失敗も、自己超越というレンズを通せば、すべてが次の章へとつながる布石に変わります。

周りの人と付き合う際にも、「あの人は今、新しい章に入ったんだな」というのがこういう視点を持っていると気付けるようになります。そういったときにこのような話をすると、きっと大いに共感してもらえるでしょう。

踏み出す勇気こそ人生の意味

人生の短編小説は、あなた自身が筆を握り、語り口を選び、展開を決めることができます。たどたどしい語り口でもいい。混乱した展開でもいい。大切なのは、自分が「これが自分の物語だ」と胸を張れることです。

私は今、第4章を意識しています。まだ具体的なストーリーは固まっていません。しかし確信しているのは、「過去の章と同じ語り口でなくてもいい」ということです。むしろこれまでと違うからこそ新しい。平坦でなくてもいい。むしろ起伏があるからこそ読む価値がある。そう思うと、不安よりも期待が勝り、前に進む勇気が湧いてきます。

自己超越とは、悟りのような遠いものではないと考えます。日々の小さな気づきの積み重ねにあります。静かな黙想のひととき、誰かにそっと思いやりを向ける瞬間、物質よりも心に価値を見出す場面。それらすべてが、きっと次の章を描くインクになるのです。

PS

日々の相談に落とし込むと、こういったマインドを内に持っているかいかないでは大きな違いが生まれるはずです。

なぜなら相談者の方と話すときに、『この人は今、章を変えたいのか、それとも章の中の一節をより彩り豊かにしたいのか』という本質的な希望(欲求)が透けて見えてくるはずだからです。

アドバイスをどこにフォーカスするかで共感力が大きく異なり、共感の大きさによって信頼関係の構築度合いが変わるのは間違いないでしょう。

昆知宏
新潟の住宅会社に営業として勤めた後、『特定の会社に属さずに、客観的な立場から住宅購入をサポートできるFPになりたい』という想いの元独立。住宅購入を専門とするFPとして、新潟でこれから家を買う方への相談を行っている。コンサルティングフィーは土地建物価格の1%と高額ながら、多くの顧客に支持されている。

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