執筆者:昆 知宏
住宅ローン相談をしていて、最近ちょっと不思議だなと思うことがあります。
それは、ここ最近になって固定金利を選ぶ方が明らかに増えてきたことです。
固定金利は、今年になって大きく上昇しました。
数年前の超低金利の時代であれば、固定金利を選ぶメリットは今よりも大きかったはずです。
でも多くの人が見向きもしないくらい固定金利は選ばれませんでした。
それなのに、実際には金利が上がってから固定金利を選ぶ人が増えている。
これは住宅ローンの話というより、人間心理の話なのだと思っています。
人は利益よりも損失を嫌う
これを受けて久しぶりに行動経済学の「損失回避の法則」を思い出しました。
人は何かを得る喜びよりも、何かを失う苦痛のほうを大きく感じるというものです。
例えば100万円儲かる喜びよりも、100万円損をするショックのほうがずっと大きく感じる。
これは投資の世界では有名な話です。
住宅ローンも同じです。
金利が動かなかった頃は、
「変動金利でいいかな。」
と考える人が多くいました。
しかし実際に金利が上がり始めると、
「これ以上上がったらどうしよう。」
という気持ちが強くなります。
目の前で損失が現実味を帯びたことで、「安心」を求めて固定金利を選ぶ人が増えているのでしょう。
数字だけを見れば数年前のほうが固定金利を選ぶメリットは大きかったはずなのに、人は過去よりも今起きているリスクのほうを強く意識してしまうものです。
正解ではなく、納得解を選ぶ
FPとして相談を受けるとき、私は固定金利か変動金利か、どちらか一方を強くおすすめすることはありません。
それぞれのメリットとデメリットを整理し、そのご家庭の家計や価値観に合わせて材料を提示する。
そして最後は、お客様自身に選んでいただくようにしています。
住宅ローンは30年、40年という長い付き合いです。
だからこそ、「FPが決めたから」ではなく、「自分で納得して選んだ」ということが、とても大切だと思っています。
もちろん、返済額を少しでも抑えたい方であれば変動金利が合っていることもあります。
一方で、多少返済額が高くなっても安心して眠れることに価値を感じる方もいます。
住宅ローンは、お金の問題であると同時に、価値観の問題でもあるのです。
「決めてください」と言われたら
とはいえ、相談の最後に、
「もう決められません。昆さんが決めてください。」
と言われることがあります。
そんな時、私は冗談半分でこう答えます。
「それなら固定金利にしましょう。将来、金利が急騰したときに恨まれたくないので(笑)。」
もちろん半分は冗談です。
でも、半分は本音でもあります。
未来は誰にも分かりません。
だから私は、私なりの金利観は持っているものの「金利はこうなる」と予想して提案することはしないようにしています。
それよりも、万が一予想と違う未来になったとしても、そのご家庭が後悔しにくい選択を一緒に考えることのほうがFPとして大切だと思っています。
金利を予測することではなく、将来どんな環境になっても安心して暮らせる家計をつくること。
経済が激動する今こそ、安心を届けることが私たちFPの本当の役割なのではないでしょうか。