FPが陥りがちな “専門家病” に気づかされた話

執筆者:昆 知宏
    

この春から、大学生を対象に通年のFP(ファイナンシャル・プランニング)の授業を担当しています。
   
 現在は前期のちょうど折り返し地点。講義の内容も試験の形式もすべて自分の裁量で自由に決められるため、最近は授業の中でちょっとした「市場調査」を行っています。

とはいえ大げさなものではなく、毎回のミニテストに自由記述の設問を加えるだけのものです。

最近の授業では、FPの6分野のうち「ライフプランニングと社会保険」を終え、現在は「リスク管理」分野に入り、生命保険の基礎まで進みました。

保険のパートでは、私自身の実務経験を活かし、現場に近い内容を意識してお伝えしました。

その中で、小テストとして以下のような設問を出しました。

「あなたは(民間の)医療保険に加入したいですか?『はい・いいえ』で答え、その理由も述べてください」

これは、実際に今の大学生がどのように医療保険を捉えているのかを知ることが目的でした。

授業で伝えた前提条件

この問いを出す前に、社会保険制度の基本として、健康保険の仕組みや自己負担割合、そして高額療養費制度についても丁寧に説明を終えた状態です。さらに、アメリカとの制度の違いにも触れました。

つまり、「すでに医療制度の基礎知識はある」という前提のもとで、民間医療保険に対する考えを尋ねたわけです。

個人的には、今どきの学生なら「タイパ」「コスパ」を重視して、「日本には健康保険があるから、わざわざ民間の医療保険は不要では?」という反応が多いのでは…と予想していました。
 (正直なところ、私の話し方にその方向へやや誘導してしまった部分もあったかもしれません。)

ところが、結果は予想外

予想は完全に裏切られました。

医療制度について十分な説明をしたあとであれば、肯定派と否定派が半々になると予想していましたが...

なんと、「加入したい」と答えた学生が100%だったのです。

理由は以下のようなものでした。

若いうちに入れば保険料が安く済むから

何かあったときに備えがないと不安だから

治療費を自分で全部払うのは大変だから

経済的な不安を軽減したいから

未来は不確実だから

長生きは望まないけれど、家族に迷惑をかけたくないから

遺伝的に病気のリスクが高いと感じているから

保守的だと言われる今の若者像が、そのまま表れたような結果に、私自身かなり驚かされました。

相手を「知る」ことの大切さ

今回の結果は、学生たちが高額療養費制度や傷病手当金といった制度の仕組みを理解した上での「加入したい100%」という事実でした。
 

これは、自分が「きっとこう思っているだろう」と考えていた若者像とのギャップを突きつけられた形です。

この体験から、私にとっても大きな学びがありました。

私たちFPは、日々お金のことを学び、考え続けています。

その中で、自分にとっての “常識” を、つい相手にも当てはめてしまいがちです。

これを私は「いつの間にか専門家病」と呼んで恐れているのですが、まさに今回、自分もその落とし穴に片足を突っ込んでいたと感じました。

自分にとって当たり前の言葉や価値観が、相手にとっても同じとは限らない。
 

説明の中で難しい言葉を使いすぎていないか?相手を置き去りにしていないか?

あらためて、自分の伝え方を見直そうと思いました。


PS

最後にひと言。
 日本の保険業界、しばらくはまだ安泰かもしれません。
  “加入したい” が100%とは、まさに想定外の結果でした。

昆知宏
新潟の住宅会社に営業として勤めた後、『特定の会社に属さずに、客観的な立場から住宅購入をサポートできるFPになりたい』という想いの元独立。住宅購入を専門とするFPとして、新潟でこれから家を買う方への相談を行っている。コンサルティングフィーは土地建物価格の1%と高額ながら、多くの顧客に支持されている。

関連記事