FPの新たな選択肢-不動産コミッションという武器

執筆者:昆 知宏

     

ここ数年、不動産分野はFPにとって一気に身近な領域になりつつあります。具体的に言えば、自らが宅建業を営まなくてもエージェントとして活躍できるインフラが整ってきています。

これまでは「宅建資格を持っていなければ仲介や販売には関われない」と考える人も多かったと思います。私もそうでした。

しかし近年は、不動産関連の仕組みやサービスが急速に進化し、宅建を持たなくても参入できるルートが整ってきました。一時期の保険募集委託の拡大を見ている感じです。一気に拡大しそうですが、参加者が質の高い人ばかりとは限らず、その後大きな規制が入りそうな雰囲気をひしひしと感じます。であれば、参入するなら今かも?と考えることもできます。

FPの業務の中では、保険、IFA、住宅ローン取次といった「コミッションで収益を得るカード」が既に存在しています。ここに新たに「不動産」というカードが加われば、選択肢の幅は大きく広がることになります。

しかも、不動産は顧客のライフプランに直結するテーマであり、資産形成・資産運用という観点からも避けて通れない存在です。顧客が住宅を購入する、投資用不動産を検討する、相続対策として土地を活用する…。これらの場面はFP業務と切っても切れない関係にあります。だからこそ「FPが不動産を収益源のひとつにできるかどうか」という問いには関心が強い方が多いのではないでしょうか。

FPと不動産の相性

FPの教科書的な分類でも、不動産は「6分野」のひとつとして必ず登場します。ライフプランニングにおいても、不動産は人生最大の支出であり、同時に最大の資産となり得る存在です。さらに資産運用の観点でも、不動産は株式や債券とは異なるリスク・リターン特性を持ち、ポートフォリオを組む上で重要な位置を占めます。つまり、不動産はFPが顧客と向き合う際に必ず通る領域であり、相性は抜群に良いと言えるのです。

この「相性の良さ」を踏まえると、FPが不動産仲介や販売を自ら手掛けられるようになったときの可能性は計り知れません。単に顧客に助言するだけでなく、具体的な物件提案や仲介にまで踏み込めるようになれば、顧客への提供価値は一段と高まります。さらに、収益面でも「コンサルティングフィー+不動産コミッション」という形が成り立てば、FPのビジネスモデルは一気に厚みを増すでしょう。

ただし、ここで注意が必要です。

不動産ビジネスは収益性が非常に高い領域であるがゆえに、コンサルティング主体のFP業務が「小さく」見えてしまうリスクがあります。実際に、フィー収入で積み重ねてきたFPが、不動産仲介に踏み込んだ瞬間に「フィーなんてやっていられない」と感じてしまうケースも少なくありません。それほど不動産の収益インパクトは大きいのです。私が今まで不動産ビジネスをやってこなかった理由のひとつはこれです。

不動産ビジネスの威力とリスク

だからこそ重要になるのが「自分はFPとして何をしたいのか」「顧客にどんな価値を届けたいのか」という軸を明確に持つことです。不動産ビジネスは本気でやれば大きな利益を生む領域ですが、その収益性に引きずられると、いつの間にか「FP」ではなく「不動産屋さん」になってしまいます。もし自分の軸が「顧客のライフプランに寄り添い、資産形成をサポートすること」であるなら、その軸を忘れてはいけません。

私はこれまで、保険やローンといった分野でも「収益は手段であり、目的ではない」と考えてきました。不動産も同じで、目的はあくまで「顧客のゴールに伴走すること」です。そのためには、不動産を扱うこと自体を否定する必要はありませんが、「収益の大きさに軸を奪われない」ことが何より大切です。

さらに言えば、不動産を扱うにしても、自分で全てを抱える必要はありません。専門家とチームを組む形で関わる方法もあります。実際、私はこれまで信頼できる不動産パートナーとの協業を通じて顧客に価値を提供してきました。

その関係性を大切にしているため、自分自身が「不動産で大きくコミッションを得ること」に執着はありません。ただし、ケースによっては「自分が完結した方が顧客にとってスムーズである」場面もあります。そんなときに備えて、不動産というカードを持っておくことは意味があるのではないかと感じています。

紹介型FPと完結型FPの間で

私は基本的に「紹介型FP」を理想としています。つまり、自分が売るのではなく、コンサルティングフィーを主体としながら、保険やローン、不動産などは優れた専門家を紹介し、顧客とチームで並走する。これがFPらしいあり方だと考えています。紹介を通じて専門家の力を最大限に活用し、顧客のゴールに寄り添うことにこそ、FPの存在意義があると思うのです。

ただし、紹介にはリスクがあります。紹介先がこちらの期待通りに動いてくれない、顧客対応の質が思ったほどでない、そんなケースも現実には少なくありません。その結果、顧客に迷惑をかけたり、FP自身の信頼が揺らいだりすることもあります。このリスクを考えると、やはり「自分で完結できるカードを持っておく」こともまた重要だと感じます。

不動産というカードを持つことは、必ずしも「不動産屋になる」ということではありません。むしろ「FPとしての軸を守りながら、必要なときに顧客のために完結できるオプションを持つ」ことだと思います。FP業界全体にとっても、こうした発想の広がりはこれからますます必要になるでしょう。コンサルティングフィーだけに頼らず、複数の収益カードを持ちながらも、常に顧客本位の姿勢を崩さない。このバランスをとる難易度は高いものの、そういったバランスに長けたFPが経営的に強くなり、結果長く続けられ、顧客に長きにわたって寄り添えることは言うまでもありません。

コミッションを得ることを頭ごなしに否定せず、あらゆる可能性を探ることが大事ですね。

昆知宏
新潟の住宅会社に営業として勤めた後、『特定の会社に属さずに、客観的な立場から住宅購入をサポートできるFPになりたい』という想いの元独立。住宅購入を専門とするFPとして、新潟でこれから家を買う方への相談を行っている。コンサルティングフィーは土地建物価格の1%と高額ながら、多くの顧客に支持されている。

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