執筆者:昆 知宏
私はFP事務所を開業して10年目になりますが、いまでは固定電話をほとんど使っていません。
正確に言えば「使わない仕組みに変えた」のです。
問い合わせはすべてフォーム経由。ホームページにも電話番号は目立たない場所にしか載せていません。
このスタイルに切り替えたのが約3年前。最初は正直、勇気がいりました。
「電話がないなんて、信用を失うのでは?」
「問い合わせが減るのでは?」
そんな不安が頭をよぎりました。
確かに問い合わせ数そのものは減りました。しかし、“顧客になる人”の数はほとんど変わらなかったのです。むしろ、業務のムダが減り、事務所運営が格段にラクになりました。
今振り返れば、電話をなくしたのは“効率化”というより“精神の安定”のためだったと言えます。
知らない番号からの着信があり、そのたびに集中力が削がれる。
顧客かと思って折り返しても営業電話か、無料相談目的の問い合わせばかり。
それならば、思い切って電話という窓口そのものを閉じてしまえばいい。
そう腹をくくって以降、業務の流れが一気に整いました。
電話が苦手な人たちの時代
最近では「若者は電話が怖がる」とよく聞きます。
たしかに、誰か分からない人からいきなり電話がかかってきて、即答を求められるのはストレスです。
私自身、昔から電話があまり得意ではありませんでした。
話の文脈が見えず、資料も手元にない状態です。
言葉選びを間違えれば誤解を生むこともある。
この緊張感が、思った以上に心のエネルギーを消耗します。
実際電話をやめた理由の一つは、電話で「ちょっと聞きたいだけ」層が多すぎたことです。
FPの方ならわかると思いますが「会うまでもないけど、無料で教えてもらえるなら…」という感覚でかけてくる人が少なくありません。
中には「この前、テレビで見た保険の話だけど…」「公庫の借入について聞きたいんだけど…」「よく分からないハガキが銀行から来たけどこれどうしたらいいの?…」と突然質問を始める方も多くいらっしゃいました。
しかも顧客でもないし、誰だかも分からない人からですよ…。
こちらは相手の状況をまったく知らず、情報の断片だけをもとに回答を求められる。
気づけば、5分、10分と時間を取られ、相談料も発生しない。
無料で聞けるものは聞きたいという心理は理解できます。
ですが、それを“電話”というリアルタイムメディアで受けてしまうと、
FPとしてのリズムが完全に崩れてしまいます。
そんな経験を重ねるうちに、「電話=消耗源」と感じるようになりました。
だから思い切って、電話をシャットアウトしたのです。
問い合わせの導線をどう設計するか
一般的な事務所であれば、「電話+フォーム」が王道でしょう。
ですが、ひとりで運営するFP事務所にとって、電話対応はかなりの負担です。
かかってくる時間もバラバラ、内容もまちまち。
「対応できる人員がいない」というだけでなく、「気持ちが引っ張られる」という問題もあります。
私の場合、今電話は秘書代行サービスにお願いしています。
しかし、実際にかかってくる9割は営業電話。秘書サービスですら無駄だなと思います。
残りの1割が顧客からの問い合わせですが、その多くはホームページを読まずに電話してくる層です。
「これって無料で教えてもらえるんですか?」
「NISAってどこでやるのが一番得ですか?」
またしてもそんな質問をいきなり投げてくる。
秘書の方には「電話相談は受付していません。フォームからお問い合わせください」と連絡してくださいとお伝えしています。
それでも、「電話がつながらないんだけど」と何度も鬼電してくる人がいます…
結局、こちらが折り返すと「なんだ、無料で教えてくれないの?」という反応。
正直、時間のムダです。
最近もこれがまたあり、いよいよ電話は完全にとらなくてもいいかなと思うくらいです。
今は、フォーム+LINE+インスタを中心に、WEB導線を整えています。
この形のほうが、問い合わせの質が高く、コミュニケーションも整理しやすい。
記録も残るので、トラブルにも強い。
「電話がつながる安心感」は一見大事に見えますが、
それは“会社”や“大手”に求められる性質です。
私たち独立系FPのような小規模形態では、「適切な導線をつくること」こそが信頼の入口なのです。
“快適な働き方”を選ぶ勇気
世の中のあらゆる仕事で、昔の「当たり前」が通用しなくなっています。
固定電話もその一つです。
かつては、事務所に電話があることで「ちゃんとした会社」という印象を持たれました。
だから私も迷わず固定電話を設置しました。
しかし今では、多くの個人事業主や専門職が、スマホひとつで完結しています。
大事なのは、「自分にとって快適に働ける仕組みを選ぶこと」です。
電話が得意で、会話の中で人間関係を築くのが好きな方は、電話を残せばいい。
でも、私のように電話が嫌いで「集中して考える時間を大事にしたい」「非効率なやり取りを減らしたい」と思うなら、思い切って電話を閉じても問題ありません。
3年間やってみて分かったのは、「本気で相談したい人は、どんな手段でもちゃんとたどり着く」ということ。電話がつながらないからといって離れる人は、もともと関係が続かない人です。
逆に、フォームからじっくりと背景を書いてくださる方は、初回面談の段階で既に信頼関係ができています。
メールの文面にも、その人の誠実さや意欲が現れます。
それが、FPにとって何よりのフィルターになるのです。
電話をやめたことで、
・時間のムダが減り
・集中力が上がり
・対応の質が安定し
・ストレスが激減。
これは確かに実現できました。
「電話を取らないなんて非常識」と言われるかもしれません。
でも、それでいいのです。
自分の仕事を快適に、誠実に続けるためなら、従来の“当たり前”を変えても構わない。
もしあなたが、電話対応にフラストレーションを感じているなら、一度、思い切って切り離してみてください。最初は怖いですが、すぐに気づくはずです。
...「何も困らなかった」と。
むしろ、空いた時間により多くの価値を生み出せるようになるでしょう。